最近の書棚から(2003年7月〜12月)


田中勘兵衛『日野誌』(田中忠三郎、1933年6月)


 2003年7月購入。田中教忠の著作もだんだんと集まってきました。『京都市話』上下、『六角堂如意輪観世音考』『五条橋、附四条橋考』につづく5冊目ということになります(正確に言うと、『京都市話』上が2冊ありますので、6冊目ですが・・・)。子息忠三郎氏が父教忠の著作を私家版で刊行したものでは、『蓮華王院三十三間御堂考』全3冊のみが、未入手ということになるでしょうか。そのほか忠三郎氏は、教忠所蔵の『徒然草』の複製などもつくっておられますが、これは今のところ手を付けないことにしています。
 さて、この『日野誌』は、冒頭に「日野誌  日野角坊田中忠三郎誌」と、忠三郎氏によって、京都郊外の日野の概略が記され、その後に、教忠氏が明治22年3月に記したという「山城国宇治郡日野 法界寺略記并追考」が掲載され、最後に「カナカキ方丈記」の写が附載されているという構成をとっています。したがって、「日野誌」自体は教忠の著作ではなく、「山城国宇治郡日野 法界寺略記并追考」が教忠の著作というのが正確なところです。内容は、他の著作同様、各種の記録・典籍類から関連記事を抜き出して並べてあるというスタイルをとっています。


田島公編『禁裏・公家文庫研究』第1輯(思文閣出版、2003年2月、\9800)


 2003年8月受贈。2001年に科研の報告書として出された『東山御文庫本を中心とした禁裏本および禁裏文庫の総合的研究』(研究代表者 田島公)に新稿を加えて、市販したものです。目次は下記の通り、科研報告書にない新稿には○印を付しました。
  ○ 序―東山御文庫と書陵部―    橋本義彦
    第1部
     明治以後における東山御文庫御物の来歴  北 啓太
     近世禁裏文庫の変遷と蔵書目録
       ―東山御文庫本の史料学的・目録学的研究のために―  田島 公
    第2部
  ○  田中教忠旧蔵『寛平二年三月記』について
       ―新たに発見された『小野宮年中行事裏書』―   鹿内浩胤
  ○  『小野宮年中行事裏書』(田中教忠旧蔵『寛平二年三月記』影印・翻刻  鹿内浩胤
  ○  広橋家旧蔵本『叙除拾要』について―藤原行成の除目書と思われる写本―  西本昌広
     尊経閣文庫本『無題号記録』と東山御文庫本『叙位記 中外記』所引「院御書」―『院御書』の基礎的考察― 田島 公
  ○  『秋玉秘抄』と『除目秘抄』―源有仁原撰本『秋次第』と思われる写本の紹介と検討―  田島 公
    第3部
     東山御文庫本『御産記 寛弘六年十一月』(小右記)の紹介   石田実洋
  ○  『中右記部類』目録   吉田早苗
  ○  伏見宮本『御産部類記』について   詫間直樹
  ○  『実躬卿記』写本の形成と公家文庫  菊地大樹
  ○  菊亭家本の賀茂(鴨)御幸記二種―洞院家文庫の遺品―   藤原重雄
     洞院公数の出家―東山御文庫本『洞院家今出川家相論之事』から―  末柄 豊
    第4部
     東山御文庫本マイクロフィルム内容目録(稿)(1)    小倉慈司

なお、科研報告書にあって、今回市販の『禁裏・公家文庫研究』に収められなかったのは下記の論考。
    史料編纂所所蔵「東山御文庫目録」と現御文庫目録との関係    飯倉晴武
    中世天皇家の文庫・宝蔵の変遷―蔵書目録の紹介と収蔵品の行方―  田島 公
    御物『弘仁格抄』古写本調査報告    『弘仁格抄』調査グループ
    史料編纂掛の東山御文庫調査とその開始    山田邦明

田中教忠旧蔵書は未知のものでした。作成中の教忠旧蔵書リストに1点追加ができました。


瀬野精一郎編『日本荘園史大辞典』(吉川弘文館、2003年3月、\24000)


 2003年8月購入。最近、吉川弘文館からは、国史大辞典の切り売りと思われるような分野別の辞典かいろいろと刊行されています。それなりに使い勝手はいいのですが、必ずしも新しい研究成果が盛り込まれていないものもあるようで、国史大辞典があればいいか、と思ってしまうものもなくはありません。そんな中で、この『日本荘園史大辞典』はかなり新しい項目の追加や、書き直しを行っているようです。この数年、財政史などの分野は急速に進展しましたし、荘園研究も新たな成果が出ていますから、国史大辞典の記述ではあまりに古すぎるからでしょう。執筆者の一覧を見ても、国史大辞典世代よりずっと若い研究者が多く起用されています。そのあたりの事情は吉川弘文館の広報誌『本郷』誌上で瀬野氏が述べられていました。この本で一番いいと思ったのは、巻末の「荘園一覧」(50音順)、「領家別荘園一覧」です。本文中にも、それぞれの項目にも一覧があり、詳細はそちらを見るとして、荘園名から、また家領荘園等を横断的にざっと探すには便利な表になっています。索引も充実。


『大日本仏教全書 華頂要略』全3冊(仏書刊行会、1913年)


 2003年8月購入。比較的弱点と思われる仏教書、それなりに買ってます。今回は大日本仏教全書の華頂要略。大部の華頂要略すべてではなく、「門主伝」の部分のみが活字になっています。とりあえず、手元にあるに越したことはないので購入。こんな買い方をするので、ますます本の置き場がなくなるんだなあ。


川瀬一馬『読書観籍日録』(日本書誌学大系21、青裳堂、1982年3月、\6500)


 2003年10月購入。昭和8年から11年まで雑誌『書誌学』に13回にわたって連載されていたものをまとめています。内容は川瀬氏がどこでどのような本を見たのかを記した日記。田中本に関する記述がないか調べたことがありました。生活に逐われることもなく、日々書物と接しているという、今の世の中からは信じられないような世界が繰り広げられていて、驚かされます。この時代の学問は高等遊民のものなのですねえ。書誌学のような学問は、やはり実物を数多く見ないといけないということだけはわかる気がします。最近、図書館で古書マニアの買い出し日記のような本を見かけましたが、それとはだいぶ違うなあ。


小林保治校注『古事談』上下(古典文庫、現代思潮社、1981年、各\2400)


 2003年10月購入。岩波書店の「新日本古典文学大系」が実はまだ完結していないというのに気づいている人って意外と少ないのではないでしょうか。続編である明治編もでているのに。何が未刊かって、『古事談』なんですよ。ほかにもあるかもしれないけれど。当初の予定では大曽根章介氏が担当者だったのですが、亡くなってしまったこともあり、こういう状態になってしまったようです。『古事談』の本文は新訂増補国史大系にも収められており、一部の現代語訳は教育社の新書で出ていたりはしますが、新大系が出ていない現在、『古事談』の唯一の注釈書と言ってもいいのがこの本ではないでしょうか。『続古事談』の方は和泉書院から注釈書が出ていますけど。『古事談』の説話は、歴史研究の上でも侮れません。端本で1冊だけ持っていたのですが、なかなかもう1冊の端本や安価な揃いは見つかりませんでした。最近は2冊で1万円近い値段が付いているようですから、2冊揃いの\2000はかなりの掘り出し物。

上行寺東やぐら群遺跡発掘調査団編『横浜市金沢区上行寺東やぐら群遺跡発掘調査報告書』(上行寺東やぐら群遺跡発掘調査団、2002年3月)


 2003年10月購入。ついに出ました。1986年の破壊から、20年近い年月を経て出された報告書です。横浜市が再三刊行を働きかけているとは聞いていたものの、このままうやむやになってしまうものと諦めていました。これまでの経緯はもちろんのこと、内容の善し悪しを含め、いろいろと問題はありますが、まずは、この報告書が出たことを素直に喜びたいと思います。正式な報告書が出るまではと、この遺跡についての発言を控えてきた方もいますから、是非とも再び活発な議論をしてもらいたいものです。報告書が出たことをうけて11月に神奈川地域史研究会と六浦文化研究所が合同で報告書の検討会を開きました。考古学の専門家からは、重要な地層の断面図などが載せられていないなどの指摘がありましたが、その一方で中世考古学を専門としない人が書いた報告書としては、よくやった方ではないかとの意見もありました。私たち文献畑の人間は、報告書の図面や遺物のトレースなどを見ても、何をどう読みとっていいのか、よくわからないというのが正直なところですが、その検討会の報告を聞いて、なるほど専門家はこういう見方をするのかと勉強になりました。この検討会を発展させて、シンポジウムを開こうという動きもありますので、ご期待下さい。


横浜市歴史博物館編『鎌倉御家人平子氏の西遷・北遷』(横浜市歴史博物館、2003年10月)


 2003年10月購入。横浜市磯子あたりを本拠地とし、周防や越後に移っていった武士団、平子(たいらこ)氏をテーマとした展示が行われました。各地から関連資料を集め、なかなか力の入った展示および図録が出来上がりました。平子氏はもともと秩父系統の一族ですが、三浦氏の子孫を称しました。周防の平子氏が伝えた文書が『大日本古文書』に収められている「三浦家文書」です。もちろんその「三浦家文書」も展示されていました。


山本信吉『摂関政治史論考』(吉川弘文館、2003年6月、\11000)


 2003年11月購入。山本氏の代表的な論考を収めた論文集です。著名なものばかりですので、ここで触れるまでもないでしょう。文化庁・博物館という文化財行政の道を歩まれた山本氏の書跡・典籍等に関するお仕事も是非まとめていただきたいものです。非常に印象的なのは、「あとがき」でした。恩師である岩橋小弥太氏のことなど、その時代の国学院大学やその周辺の世界のことが垣間見られます。「私は永い役所暮らしの中で図書に恵まれなかった。ことに不自由したのは学術雑誌にふれる機会が殆どなかったことで、自然、学界の動向に疎く、先学の業績にふれることも少なく、いわば独り歩きをしていたという反省がある」という一文は、身につまされました。


横山学『書物に見せられた英国人』(歴史文化ライブラリー、吉川弘文館、2003年10月、\1700)


 2003年12月購入。戦前〜戦後の典籍コレクターとして知られたフランク・ホーレーの伝記です。ホーレー氏については、反町茂雄氏の著書にも登場しますし、「宝玲文庫」の蔵書印のある本や売り立て目録を見たこともありました。また和紙に関する研究をしたことも知っていましたが、膨大な琉球関係のコレクションを残し、それがハワイ大学に所蔵されているとは知りませんでした。一般書ですからこれ以上を望むべくもありませんが、もう少し、マニアックな典籍コレクターとしての部分を知りたい気もします。