最近の書棚から  2001年7月〜12月



神田茂編『日本天文史料』上下(原書房、1978年11月)


 2001年7月購入。以前にご紹介した斉藤国治氏の著書の中でもしばしば引用されている本で、1935年刊行本の復刻です。序にある「本書ハ我国ニ於ケル天文関係ノ記録ノ索覧ニ便ゼンガタメ、記録ヲ分類シ、原文ヲ年代順ニ配列シタルモノデアル。年代ハ古代ヨリ西暦一六〇〇年(我慶長五年)ニ至ル」という言が最も簡潔な紹介といえるでしょう。「分類」は天文現象ごとに行われていて、第一編日食、第二編月食、第三編月星接近、第四編惑星現象、第五編星昼見、第六編彗星、第七編流星、第八編雑象(日月薄食、日雑象、月雑象、赤気、雑光象、老人星、雑)の分類となっています。記録の天文現象について関連記事や類似した事例をひろったりするには便利でしょう。


太田彩『日本の美術414 蒙古襲来絵詞』(至文堂、2000年11月、定価\1571)
松本(太田)彩解説『旧御物本蒙古襲来絵詞 折本日本古典絵巻館』(貴重本刊行会、1996年4月、定価¥92233)


 2001年7月購入。NHK大河ドラマがらみの執筆や講演を頼まれることもあり、その根本史料の一つである「蒙古襲来絵詞」について、少し勉強してみようと購入しました。前者は三の丸尚蔵館の学芸員による最新の研究成果です。「てつはう」が描かれた有名な場面が実は錯簡で、竹崎季長の方を向いて攻撃している3人の蒙古兵は改竄されて書き込まれたものであるという興味深い指摘がされています。本絵巻の成立過程の謎がますます深まっていきます。後者は以前ご紹介したゾッキ本の一つ。改めて注文したところ、すでに品切れ。その後、神田の古書会館の即売会で¥9000で出ているのを見つけて購入しました。中央公論社の『日本の絵巻』などでは、いい場面も一部が本の綴じ目に入ってしまいますが、これなら折り本なので、どんな場面でも広げられます。いろいろな使い方が出来るかも知れませんね。
 私はこの絵巻を『蒙古襲来絵詞』と呼んでいるのですが、実は各種の日本史関係の辞典類を見ると『蒙古襲来絵巻』で項目を立てているものがかなり多いのに驚きました。国史大辞典や岩波・小学館も「…絵巻」になっています。指定文化財ですと、その名称が一つの基準になりますが、宮内庁所蔵のものは文化財指定の適用外ですので、その判断が使えません。『本朝軍記考』には「蒙古襲来絵巻物」、絵巻付属文書に「蒙古襲来絵巻物」と見えますが、「蒙古襲来絵巻」とはなっていませんし、宮内省買い上げ当時の収納箱蓋表に「蒙古襲来絵詞」、箱裏添付の文書にも「蒙古襲来絵詞 二軸」とあることからすれば、やはり「蒙古襲来絵詞」の名称が適当でしょう。


歴世服装美術研究会編『日本の服装 上』(吉川弘文館、1963年12月)


 2001年7月購入。装束に関しては以前に鈴木敬三監修『復元の日本史 王朝絵巻』(毎日新聞社)を紹介しました。その本にも引かれている白黒の装束模造品(復元品)写真の出典が、この『日本の服装』です。上巻のみなので端本と思われがちですが、実はいまだ下巻は刊行されずにいる本です(まあ刊行は不可能でしょう)。ちなみに古代・中世が上巻、近世が下巻という予定だったようです。B5版176頁ですが、写真がふんだんで、それぞれの解説キャプションも充実していますし、巻末の「索引・用語解説」も便利です。装束関係では鈴木敬三編著『古典参考図録・古典参考資料図集』(国学院高等学校)もお勧めです。今夏のデパート古書即売会では、『装束集成』(増訂故実叢書)を¥1500で購入しました。


永島福太郎『奈良文化の伝流』(目黒書店、1951年2月)


 2001年8月購入。中世の奈良に関する最も基本的な文献でしょう。各章の題を列挙すると、「南都七大寺と十五大寺」「春日社の発展」「興福寺の発展」「東大寺の発展」「中世の大和」「中世の奈良」「神事と法会」「もの詣と沿道文化の発達」「公卿子弟の南都寺院進出とその管領」「大乗院の園池」「春日信仰の伝播」「南都教学の発展」「南都文芸の発達」「商工業の発達」「国内文化の様相」「社寺の衰退と朱印制の成立」「興福寺経済の破綻」「南都仏教の後退」「新都市の発達」「近世文化の成立」となります。東大寺・興福寺・春日社を中心とする中世奈良を広くカバーしていることがわかります。今日まで50年以上にわたり、奈良といえば永島福太郎というのも、いろいろな意味ですごいですね。
 最近では、安田次郎氏が『中世の奈良』(吉川弘文館、1998年10月)で自治的な郷を、『中世の興福寺と大和』(山川出版社、2001年6月。同年7月受贈)で春日若宮おん祭を通した寺社と武士との関係や、興福寺による大和支配、大乗院門跡など、永島氏とは異なる角度から、「奈良」を深めています。
 『奈良文化の伝流』を購入した二週間後、古書会館の即売会で 『奈良文化の伝流』を発見、手に取ると何と値段は¥500。すごく悔しい思いをしました。でも、その本は奈良に関心を持つ同行者に落掌され、我が家の別室に置かれています。


裏松固禅『大内裏図考証』全3冊(新訂増補故実叢書、明治図書、1951〜2年)


 2001年8月購入。今年のデパート古書即売会での「獲物」の一つです。古記録類を読むにあたって、故実叢書が役に立つことは言うまでもありません。中でも、儀式書の『北山抄』『西宮記』『江家次第』、装束書の『装束集成』、そして内裏殿舎・諸官司に関する『大内裏図考証』は、基本的な参考書です。儀式書は近年、神道大系でも翻刻が行われていますが、『大内裏図考証』、故実叢書でなくては見られません。内容の詳細さは、江戸時代の考証史家恐るべしです。故実叢書には索引がありますが、決して充分な索引とは言えません。いくつかの書目だけでもいいから、もっと詳細な索引があったら良いなあと思っているのは私だけでしょうか。


安達裕之『日本の船 和船編』(日本海事科学振興財団 船の科学館、1998年3月)


 2001年9月受贈。縄文時代の丸木船から明治時代の帆船まで、和船の歴史を豊富な図版とともに概説した本です。この分野では石井謙治氏の『図説和船史話』(至誠堂)が名著として知られていますが、本書はその成果も取り入れてわかりやすく書かれています。しかし、史料の少ない古代・中世の船に関しては、わからないことだらけだというのを改めて感じさせられました。そうした中で、最近福岡県の鷹島から弘安の役で沈没したと思われる船の部材や碇が発見されたというニュースに接しました。専門家によれば、『蒙古襲来絵詞』に描かれた船は構造的に見ても極めて事実に即しているそうですから、水中考古学の成果と合わせて鎌倉時代の船についての研究が進むことを願って止みません。なお、姉妹編として『日本の船 汽船編』があります。


市古夏生・鈴木健一校訂『新訂 都名所図会』4(ちくま学芸文庫、1999年5月、定価¥1300)


 2001年9月購入。全5冊のうち、買いそびれていた4冊目を買いました。ちくま学芸文庫に『新訂 江戸名所図会』に続き、その京都版とも言える『都名所図会』『拾遺都名所図会』が入りました(成立は『都名所図会』が先ですから、『江戸名所図会』が『都名所図会』の江戸版という方が正しいですね)。江戸時代の観光ガイドと馬鹿にする事なかれ。結構、利用価値はあります。平凡社や角川書店の地名辞典にも載っていない地名や寺社が出ているのです。「図会」という位ですから、境内図などもふんだんです。先日も、『百錬抄』に出てくる神社が辞典類を探しても出てこない。そこでこの『新訂 都名所図会』を見ると、貴船神社の摂社として描かれていました。第5冊には「人名・事項・書名索引」と「地域別索引」が付されていて便利です。京都の代表的地誌類を集めた『京都叢書』を持っているに越したことはありませんが、財政的にもスペース的にも難しい向きにはお勧めです。


萩谷朴編『平安朝歌合大成 増補新訂』全5巻(同朋社出版、1995〜6年、定価計¥160000)


 2001年10月購入。これまた定価を見ると恐ろしい金額ですが、ゾッキ本として4分の1以下の安価で出回っています。旧版の10冊本は更に安いのですが、5冊本の方がお勧めです。歴史畑の人間は、とかく和歌を敬遠しがちです。私も全く同様。でも、まごうことなく平安貴族の一面なのです。しかも歌合となると、出歌者の人間関係は歴史研究からも必要不可欠でしょう。記録類にも名前を見せる人たちがウヨウヨ。特に人名索引は利用価値大です。それに各歌合の解説も充実しています。


駒沢大学大学院史学会古代史部会編『本朝世紀人名索引』(同会、1984年8月)


 2001年10月購入。新訂増補国史大系の復刊で『本朝世紀』が手に入ったことですし、人名索引の方も入手しました(ともにそれまではコピーを利用せざるを得ない状況でした)。1万5千円くらいで何度か見かけることはありましたが、今回は半額程度でしたので、購入できました。『本朝世紀』は、橋本義彦先生に「歴博田中本「本朝世紀」は「本朝世紀」にあらず」とご叱正を受けた(『日本歴史』609)、私には気が重くなってしまう本です。しかし、最近、『百錬抄』や『本朝世紀』などの編纂物についても、しっかり勉強しないといけないなぁと、思い始めています。なかなか時間もないのですが・・・。
 さて、改めて人名索引について見てみると、いろいろな形式がありますねえ。先ずは、本文とセットになったものと、独立したもの。前者の場合は冊頁のみを掲げる場合が多い。独立したものでもいくつかの形があって、多賀宗隼『玉葉人名索引』やこの『本朝世紀人名索引』、政治経済史学会でつくった『百錬抄人名索引』などの、縦書き人名索引の系譜。基本的には、諱と氏、出てくる年月日のみを記載する形式をとるもの(そのなかにあって今川文雄『明月記人名索引』は一部官職名を記し、『玉葉人名索引』は官職名をまとめて記す)。もうひとつは『吾妻鏡人名索引』に始まり(たぶん)、『兵範記人名索引』『吉記人名索引』に継承されている横書き人名索引の系譜。これは諱と氏、年月日に、それぞれ用例を載せているのに特徴がある。やはり私は後者の方が使いやすくて好きです。配列も、訓読みをしている今川『明月記人名索引』があったり、西暦で記している山上仲子『明月記人名索引』があったりと、バラエティに富んでいます。『吉記人名索引』も比定の根拠や人物の系譜を注記するという試みを行っている、やや変わり種の人名索引かも知れません。今後どんな人名索引が登場してくるか、楽しみです。でも正確性だけは大事にしないとね(自戒)。


平林盛得・相馬万里子編『文机談』(古典文庫、1988年5月)


 2001年10月購入。中世貴族社会を考えるにあたって、和歌とともに重要なのが音楽です。これらを含めた広い意味での芸能と言ってもいいでしょう。和歌についてはあまりに多くの研究史を持っていますが、音楽については、この数年来特に注目されるようになってきました。それら研究が必ず言及するといってもいいのが、この音楽説話集『文机談』です。かくいう私も「芸能と「家」」という論文で使いました。『文机談』の刊本は、本書と同年に刊行された岩佐美代子『校注文机談』(笠間書院)が手頃で行き届いていますが、『図書寮叢刊 伏見宮楽書集成』の担当者であった相馬氏の解説を載せる本書も捨てがたいものがあります。『文机談』には三浦氏など鎌倉御家人の話も登場しますので、貴族嫌いの方も一度くらい目を通してみては如何でしょうか。新しい発見があるかも。

宮内庁書陵部編『書陵部蔵 台記 保延五年夏・仁平二年秋』(宮内庁書陵部、1960年3月)


 2001年10月購入。古記録の複製本としては2年半前に購入した『中右記』に続いて2点目になります。鎌倉期古写本である九条家本台記6巻のうちの2巻で、2軸一箱(紙箱)に収められています。「解題」によれば、この複製本が刊行されたころは、ほとんど知られていない史料だったようですが、その後、ともに増補史料大成の『台記』に補遺として収められ、保延五年夏記は史料纂集本の底本に用いられました。この『台記』の装訂は、『中右記』のような絹表紙は付いておらず、九条道房が付した表紙を模した紙の表紙になっています。このほかにも古記録の複製巻子本はいくつか出ていますね。重厚さでは、宮内庁書陵部の『看聞日記』『花園天皇宸記』と陽明文庫の『御堂関白記』を筆頭に、尊経閣叢刊の『建治三年記』や成簣堂の『養和元年記』、三井文庫の『明月記(熊野参詣記)』、書陵部の『水左記』2巻、『法性寺殿御記』など。でも、そうは買えないので、これで終わりかも。ただ具注暦の複製(朱が入っているもの)があれば、欲しいなあ。


東京帝国大学史料編纂掛編『古文書時代鑑』全4帙(同掛、1924〜27年)


 2001年10月購入。1977年刊の新版・覆製版(上下2冊+解説1冊)に対して、元版といわれているもの。収載されている文書は同じですが、元版はさらに大判で、新版の上に当たる上下2帙、新版の下に当たる続編上下2帙の計4帙に、1葉ずつ収められています。写真の状態も、新版より良いような気がします。新版はいかにも複写したという感じですからねえ。でも新版の利点はコンパクトなこと。新版も大きいじゃないかって。元版はさらに大きいのですよ。だから非常に場所をとる。部屋の中の造りつけ収納スペースの棚に押し込んだのですが、棚の半分がふさがってしまった。買ったあとでちょっと後悔をしていることがあります。新版を持っている上に、これを買った自分が、ちょっとコレクターになりかけているのではないかと怖れているのです。使うための本、道具としての本を買うことを心がけていたのですが、余りの安さに惹かれて買っただけだったような気がして、反省することしきりです。


中央気象台・海洋気象台編『日本の気象史料』全3冊(原書房、1976年)


 2001年10月購入。昭和15年〜16年に刊行された本の復刻で、先にご紹介した『日本天文史料』などと一連の原書房による復刻シリーズのひとつです。第1冊には暴風雨・洪水、第2冊には雷・旋風・雪や虹などの諸現象に関する史料が載せられ、第3冊はそれらの補遺になっています。近世史料が中心ですが、六国史以降、中世の史料からも引用されています。昨今、中世史とりわけ戦国時代史では気象・災害と戦争が大きなテーマとなっていますから、資するところもあるでしょう。


和歌山県立歴史博物館編『歴史のなかの"ともぶち"―鞆淵八幡と鞆淵荘―』(和歌山県立歴史博物館、2001年10月)


 2001年11月購入。和歌山県立歴史博物館が力を入れておこなった秋の特別展の図録です。地図・絵図・現況写真をつかって中世〜近代の鞆淵の歴史を概観した「第1章 鞆淵の歴史的景観」、牛王宝印や祈祷札や仏具類を紹介する「第2章 鞆淵の民俗」、大善寺に伝来する大般若経を探る「第3章 大般若経の世界」、鞆淵八幡宮文書から中世の村落を能動的に描く「第4章 鞆淵に生きた人々」、鞆淵八幡神社の歴史を縁起絵巻と仏神像などから捉える「第5章 八幡縁起絵巻の世界」「第6章 八幡神社と大日堂」から構成され、高橋修「中世前期の鞆淵荘」、高木徳郎「中世後期の鞆淵荘」など6本の論考、さらにはその他の「鞆淵八幡神社蔵中世文書」の写真、「鞆淵荘関係文書編年目録」、「鞆淵の文化財」の写真および図録掲載資料の銘文・奥書、「参考文献一覧」と、とにかく盛りだくさんの造りです。今年の日本史研究会における書籍販売の目玉だったと言ってもいいでしょう。同時に購入した『和歌山県立博物館研究紀要』第7号(2001年10月)も「鞆淵八幡神社と鞆淵荘」の特集で、研究6本、史料翻刻2本と充実しています。その隣では『紀伊国隅田荘現況調査』(和歌山県教育委員会、2000年3月)、『中世探訪 紀伊国南部荘と高田土居』(和歌山中世荘園調査会、2001年3月)も販売していました。


中村幸彦ほか編『角川古語大辞典』1〜3(角川書店、1982〜87年)


 2001年12月購入。全5冊が完結している代表的な古語辞典です。現在の定価は1冊¥35000ですが、旧定価本が非常に安く手に入りました。『日本国語大辞典』があるからといって、侮る事なかれ。こちらの項目の方が、詳しく、説明が良いということも少なくありません。『日本国語大辞典』はわかったようでわからない、人を食ったような語釈が少なくないですから。先日引いてみた「辞別(ことわけ・ことわき)」もそんな一例です。残りの4・5巻は何時になったら買えることやら。ましてや三省堂の『時代別国語大辞典 室町編』は高嶺の花です。