最近の書棚から 2001年1月〜6月



鈴木敬三監修『復元の日本史 王朝絵巻』(毎日新聞社、1990年9月、定価¥5000)


 2001年1月購入。かなり早くからゾッキ本として安価で出回っていました(いまはもう見かけませんが)。そのころ購入し、既に持っていた本ですが、あまりに安かったのでもう1冊買ってしまいました。なんと¥500。公家の装束や調度品の復元写真や清涼殿の立体図、歴博の東三条殿復元模型の写真などが大型図版で載っているので、授業に時々持って行っては使っていました。かなり良い本ですので、安いのを見付けたら買った方がいいですよ。

豊田武・岡田荘司校注『神道大系 神社編20 鶴岡』(神道大系編纂会、1979年8月)

 2001年1月購入。「鶴岡社務記録」「弘安四年鶴岡八幡遷宮記」「八幡廻御影縁起」「鶴岡事書日記」「鶴岡八幡宮寺社務職次第」「香蔵院珎祐記録」「快元僧都記」「鶴岡御造営日記」「御殿司億持記」「御殿司年中行事記」「鶴岡八幡宮神主大伴系譜」「相模国鎌倉鶴岡一山拾四箇所由緒写書上」「鶴岡放生会職人歌合」が収められています。史籍集覧や続群書類従などに翻刻されて既に知られているものもありますが、「香蔵院珎祐記録」「快元僧都記」は本書によってはじめて広く用いられるようになったと言ってもいい史料ではないでしょうか。室町戦国期の鶴岡を知る上で貴重な史料です。
 鶴岡社の歴史は、『鶴岡八幡宮年表』(続群書類従完成会)と『鎌倉市史 社寺編』(吉川弘文館)で概略を押さえることが出来ますし、史料も『鎌倉市史 史料編』(同)『改訂新編相州古文書』(角川書店)『神奈川県史 資料編古代・中世1〜3下』『鶴岡叢書3 鮮明鶴岡八幡宮古文書集』(鶴岡八幡宮社務所)に収められた鶴岡八幡宮文書とその関連文書、群書類従や続群書類従または『鶴岡叢書4 鶴岡八幡宮寺諸職次第』所収の補任・系図類、史籍集覧または『鶴岡叢書2 鶴岡社務記録』所収の「鶴岡社務記録」「鶴岡事書日記」、そして本書でほぼ網羅されると言えるでしょう。

国立歴史民俗博物館資料委員会・管理部資料課編『国立歴史民俗博物館 館蔵資料概要』(同館、1991年10月)


 2001年1月購入。銀座松屋の古書市で買いました。1991年までに歴博が受け入れた資料の名称・員数・製作年代・法量・資料番号と若干の説明を記した目録で、1旧石器時代から古墳時代までの資料、2奈良時代以降の資料、3民俗に関わる資料、4模型資料に大別され、5索引が付いています。現在、歴博の所蔵品はデータベース化され、オンラインで検索できますが、それまではこの本が唯一の手がかりでした。しかし非常に使いにくい目録でもあります。まず、国宝や重要文化財の原本も、複製(レプリカ)も同列に並べられていることです(もちろんレプリカには「(複製品)」と注記がされていますが・・・)。管理する立場からすると、原本であろうとレプリカであろうと区別がないということでしょうか。もう一つは、まとまった史料群については一括で記されているのみであること。例えば、高松本は「高松宮家伝来禁裏本 1665件 鎌倉時代〜江戸時代」と表記されていて、1点ごとの目録ではない点です。ただし、広橋本には東洋文庫時代の目録、田中本・高松宮本には館作成の仮目録があり、田中本の文書・記録類に関しては、さらに詳細な目録が刊行されました。その後受け入れられた水木家本の目録は作成中だと思われます。

築島裕『平安時代に於ける漢文訓読語につきての研究』(東京大学出版会、1963年3月)


 2001年1月購入。またまた国語学関係の本です。その道の代表的な著作と言って良いでしょう。総説、研究資料の検討、訓法、漢文訓読語の語彙、漢文訓読語の文法、仮名文学と漢文訓読、漢文訓読の周辺の7章からなる、総ページ数は1203ページの大著です。何と言っても圧巻は200ページ近い索引でしょう。事項索引、資料文献索引、語彙索引と充実です。語彙索引はさらに「和語」「字音」に分けられ、その部分だけで「訓み方辞典」になるといってもいいほどです。また第2刷以降には「再版に当たっての補正」が14ページにわたって載せられています。いまでは古書店価格2万円を超す高価な本ですが、まだ1万円台後半の値段を付けている古書店もあるようですので、その値段なら買いです。

阿部隆一解題『振り仮名つき吾妻鏡 寛永版影印』(汲古書院、1976年5月、定価¥14000)

 2001年1月購入。このところ品切れだった本が重版されました。『吾妻鏡』唯一の影印本です。北条本を底本とした古活字本(慶長10年伏見版)をもとに、寛永3年(1626)菅聊卜が訓点を施した寛永版(斯道文庫所蔵)と、寛文8年(1668)に島津家本系統の本をもとに刊行された『東鑑脱漏』(内閣文庫所蔵)を収めています。これらの本の特色は何と言っても「訓み」がついていること。現在の『吾妻鏡』の訓みのかなりの部分はこの訓みを参考にしていると言っていいでしょう。寛永版の訓みは、中世的な訓みをよく伝えているといわれますが。古い時代には「おはす」「おはします」と訓まれていたであろう「御」を、「たまふ」と訓んでいることなども指摘されています。決して侮れない本です。
 


『日野市史 史料集 高幡不動胎内文書編』(日野市史編さん委員会、1993年3月、定価¥2000)


 2001年1月購入。立川で開かれた多摩地区の自治体史や郷土出版物を集めたブックフェアで見付けてラッキー! この本が出版されたとき、編さんに携わった知人に「差し上げますから・・・」と言われたままになってしまっていた本だったのでした。史料の翻刻は、「よくこれだけ読んだなあ」のひとことに尽きます。全点掲載された写真を見ても、私にはとても読めません。14世紀の東国を研究する上で重要な史料であることは言うまでもありませんし、武士と信仰という点でも貴重な史料です。まだ在庫はあるようですので、欲しい方は日野市に問い合わせてみたら如何でしょう。


『水莖』第6号(古筆学研究所、1989年3月)


 2001年1月購入。このコーナーで雑誌を取り上げるのは初めてかも知れませんネエ。小松茂美氏が主宰する会の刊行物です。雑誌といっても、B4版という大判です。会員のみに頒布しているものらしいのですが、この号は既に品切れのようです。目玉は、小松茂美「右兵衛尉平朝臣重康はいた」という題の54ページに及ぶ史料紹介。「後白河院北面歴名」という興味深い史料の翻刻・影印・紹介です。以前『吉記人名索引』でも使った史料ですが、その時は雑誌のコピーを入手して利用したのでした。九州の古書店にあった、こんな雑誌まで見つかってしまうのだからインターネットは便利ですね。

『図説 かなざわの歴史』(金沢区制五十周年記念事業実行委員会、2001年1月、定価¥2858)


 2001年2月受贈。縄文時代から現代に至る横浜市金沢区の歴史をたどる自治体史です。A4、291ページの大型本で、豊富なカラー図版が多数使われています。最も多くのページを割いている時代は中世です(約80ページ)。六浦の津湊、金沢北条氏と称名寺の歴史がわかりやすく書かれています(執筆は西岡芳文・盛本昌広氏)。金沢文庫文書をはじめとする写真も非常に鮮明。巻末に拙編の文献目録を再収しています。金沢区役所および区内の書店のみでの発売です。残部僅少らしいので、購入ご希望の方は、区役所にお問い合わせを。


三嶋大社編『図録 三嶋大社宝物館』(三嶋大社、1998年4月、¥3000)


 2001年2月購入。伊豆修善寺・韮山方面を旅行した帰り、三嶋大社に寄りました。久しぶりに行ったら、随分と立派な宝物館が建っていて驚きました(昔の宝物館は、ちょっとちゃちでしたから)。『一遍聖絵』の三嶋社参詣の場面がコンピューターグラフィックスで動くのは、なかなかの見物です。でも、マニア?にとって嬉しいのは、平安期(康和5年・嘉承3年)の伊豆国司庁宣や治承4年・同7年の源頼朝下文、以下の原文書の数々でした。そして、ミュージアムショップには、この「三嶋大社矢田部家文書」47点をはじめとする典籍・絵画・器物類が鮮やかなオールカラーで収められている図録が売られていました。お勧めの図録です。


藤堂明保編『学研漢和大字典』(学習研究社、1978年4月、¥4500)


 2001年2月購入。これまで使ってきた漢和辞典は、ハンディなサイズでは『新字源』(角川書店)、大型では『大漢和辞典』(大修館書店)でした。使いやすい1冊本の大辞典ということで購入したのが、これです。講談社の『大字典』を使っている人も多いようですが、私のお薦めはこちらです。理由その1、「古訓」という欄があり、『和名類聚抄』『新撰字鏡』『類聚名義抄』の字訓が載せられている。その2、「日本と中国のおもな古典の読解に必要だと思われる漢字」が採録の基準の一つとなっている。その3、熟語も日本の古典を考慮に入れている。ということで、日本の古典や史料を読むときにも使えるというのがその理由です。また『大字典』は活字が見づらいので好きにはなれないのです。今のところ活躍の場は、ちょっとした古訓調べ程度ですが、これから徐々に使い慣らしていくことにします。


家永三郎『一歴史学者の歩み』(三省堂新書、1967年9月)
奈良本辰也『歴史家への道』(旺文社文庫、1984年3月)
井上光貞『わたくしの古代史学』(文芸春秋、1982年9月)


 2001年3月購入。何れも著名な歴史家の自伝です。最近になって、こうした自伝や昔の思い出を書いたエッセイ集の面白さを認識しました。きっかけは以前ご紹介した網野善彦氏の『古文書返却の旅』(中公新書)です。私たちの世代からすると、戦前〜戦後の歴史学界の大きな転換は、すでに歴史的事象の範疇に入ると言ってもいいでしょう。これらの自伝はその当事者たちの証言でもあります。左右いろいろな立場の人の証言に耳を傾けるのも大切でしょう。その点では、『東京大学史紀要』13〜 に連載されている平泉澄氏インタビュー(1978年実施)が貴重です。それはそうと、『日本近代史学事始め』(岩波新書)の大久保利謙氏(大久保利通の孫)や井上氏(井上馨・桂太郎の孫)を筆頭に、みなさんいいところのお坊ちゃんたちなんですねえ。昔はこういう人たちじゃないと文学や歴史はできなかったんですね。あと、うらやましいのは、偉い先生の引きで、すーっと就職していることでしょうか。多少「苦労」が書いてあっても、そんなのはねえ・・・。史学史の話の序でですが、近く史料編纂所の100年史が刊行されるとのことです。12月からは東京国立博物館平成館で大日本史料・大日本古文書編纂開始100周年記念の展示もあります。

角川源義・高田実『源義経』(角川新書、1966年9月)


 2001年3月購入。高田(内田)実氏に、共著とはいえ御著書があったとは、この本に巡り会うまで迂闊にも知りませんでした。高田氏は東京教育大のご出身で、在地領主制に関する論文などを発表されていましたが、程なく研究からは手を引かれて、「堅気」になったと伝え聞いていました。もちろん私がこの世界に入るずっと前の話ですから、論文に接することしかありませんでした。
 さて、第1部(幼年時代、鞍馬脱出、鬼一法眼のこと、弁慶物語)、第3部(腰越状以後、西国落ち、雪の吉野山、勝長寿院縁起、京都脱出、北国落ち、栗原寺、北方の王者、義経最期)を角川氏が、第2部(歴史への登場、鎌倉殿代官義経の戦績、源平争乱の舞台裏、兄弟の反目、義経悲劇の歴史性)を高田氏が執筆しています。つまり、『義経記』などの伝承に拠らざるを得ない部分と、『吾妻鏡』や記録類、『平家物語』から歴史的事実として押さえられることが出来る部分に分けて、後者を高田氏が執筆しているわけです。見出しに用いられている「歴史的評価」「位置」「歴史性」の語には、情緒に流されることなく、義経を客観的に位置付けようという執筆意図があらわされていると言えるでしょう。


阿部泰郎編『仁和寺資料【記録篇】五宮灌頂記』『同【神道篇】神道灌頂印信』(名古屋大学比較人文学研究年報 第1集・第2集、2000年3月)


 2001年4月受贈。阿部氏を中心とする仁和寺聖教調査グループの報告書です。それぞれの史料について、影印・解題・翻刻が収められています。影印(写真)は鮮明で、大きさも適度にあり、大変読みやすくなっています。内容は、一言でいって、「マニアック」。それに尽きます。このうち、「五宮灌頂記」(平安末〜鎌倉前期の写本)は、鳥羽天皇の皇子覚性法親王の灌頂について、藤原教長が記録した日記で、歴博田中本にも見える史料です。また同じ灌頂について、別の記主の手になる「久安御灌頂記」(近世の写本)の翻刻・解題も付されています。もう一冊の「神道灌頂印信」の方は、あまりにマニアックで、私にはコメントのしようがありません。大学の紀要類とは思えぬ装訂で、そのあたりは編者以下の趣味が窺われます。




畑中栄編『澄憲作文大躰』(古典文庫、1999年4月)


 2001年5月購入。安居院流の唱導。叡山真如蔵本(孤本)の翻刻に、訓読・訳注を付したものです。469頁のうち、翻刻は40頁に満たないもので、頁の大半は解題と澄憲の伝記に費やされています。澄憲は後白河院政期の重要人物の一人ですから、その事績を知る上でも有用な本です。非売品(会員のみの頒布)で、手に入りにくい本ですが、お勧めです。