最近の書棚から 1999年7月〜12月



佐伯真一・小秋元段編『日本文学研究論文集成14 平家物語・太平記』(若草書房、1999年7月、¥3800)

 1999年7月受贈。この10年間に発表された『平家物語』『太平記』関係の代表的論文13編(平家8編、太平記5編)を集めたもの。これまで有精堂から刊行されていた日本文学研究集成を引き継ぐ形になっています。歴史の分野でも女性史のものなど、こうした論文集成が最近刊行されていますが、やはりこの手の本は解説が命になりますね。各論文の内容要約では意味がない。その点、未収論文を含めた研究動向と各論文の位置付けに言及している佐伯氏・小秋元氏の解説は良心的。


和歌山大学中世荘園調査会編『紀伊国天野郷現地調査報告』(同会、1999年5月、¥1000)


 1999年7月購入。和歌山大学教育学部の海津一朗氏を中心とするグループが圃場整備事業に先立って緊急的に行った和歌山県かつらぎ町天野盆地の調査報告書です。通称地名・水がかり・天野丹生社の祭祀などのデータが掲載され、歴史景観の考察が行われています。地図1葉付き。かせ田荘の調査・保存運動を始め、新天地で精力的に活動する海津氏には頭が下がります。


太田亮『姓氏家系大辞典』全3巻(角川書店、1972年4月、定価¥42000)


 1999年7月購入。東京・横浜の夏は百貨店の古書即売会の季節でもあります。今年の横浜そごうの古書籍大即売会で購入したのがこれです。これまでにも『日本国語大辞典』『古事類苑』など、横浜そごうで買った物は結構あるなあ。『姓氏家系』は学部時代の『吾妻鏡』の講読以来の時々使います。系譜のよくわからない武士を調べるには、とりあえず見るべき文献ですから、手元にあると良いと思っていた道具の一つでした。数年前に重版され、その価格は古書店でも5万〜6万。4万円で手に入れられたのは安かったかも。しかし、置き場所が確保できず、まだ箱に入ったまま積んであります。


文化庁監修『重要文化財』18〜23書跡・典籍・古文書(毎日新聞社、1976年、定価各¥4800)
重要文化財編纂委員会編『解説版新指定重要文化財』7・9書跡・典籍・古文書(毎日新聞社、1981年、各¥7500)


 1999年8月購入。新宿京王百貨店の古書市で購入。『重要文化財』は揃6冊で¥6000とお得でした。何年か前に横浜で見かけたときは、最後の1冊が欠けていたので見送ったのですが、今回は揃いで見つかってよかった。『新指定』の方は2巻目の仏典・禅僧墨跡が欠けていますが、とりあえず買いました。こちらは1冊¥5000とちょっと高めかな。各指定文化財の名称・数量・法量・書写年代・所蔵者などが写真とともに掲載されていて、概略というか、これを指定した文化庁の見解を知るには便利なものです。『新指定』は多少詳しい解説もあります。橋本義彦先生から『本朝世紀』ではないとお叱りを受けてしまった、いわゆる田中本『本朝世紀』など、要注意のものもあるので気をつけて使いましょう。ついでに『指定文化財総合目録 美術工芸品篇』(文化財保護委員会、1968年)も買ってしまいました(¥1800)。大型本でアート紙を使っている『重要文化財』はやたらと重く、これらをレジに持って行くだけで腰を痛めてしまった。


日本古典文学会編『源氏物語奥入』(日本古典文学刊行会、1971年10月)


 1999年8月購入。藤原定家自筆本(大橋寛治氏所蔵)の複製本です。桐箱入りの立派なもの。新宿伊勢丹の古書市で手に入れました(¥7000)。以前購入した『中右記』に続く、複製本購入第二弾です。朱入りの本文を始め表紙・見返しも原本の雰囲気を出していて、定家らしい文字が並ぶ味わいのある本ですが、残念ながら装丁の綴じ部分は洋装本的な糊綴じで、原本の装丁(粘葉装)までは復原されていません。今度は粘葉装とか綴葉装のものも欲しいなあ。伊勢丹では天理図書館善本叢書の『貞信公記御抄・九條殿御記』(¥9000)も購入。


『仏書解説大辞典 縮刷版』(大東出版社、1999年6月、特別定価¥32000)

 1999年8月購入。正編11冊、増補2冊という大部の書を、なんと1冊に収めた縮刷版。オリジナル4頁分を1頁に縮小して写真製版しています。したがって1文字の大きさが2mm程度になってしまうのは仕方がないところ。表紙をめくると当然の如く薄型のルーペが付いていました。お買い得かなあと思って買ったは良いけれど、果たして使うんだろうか。


福田豊彦・服部幸造『源平闘諍録』上(講談社学術文庫、1999年9月、定価¥1400)


 1999年9月受贈。読みたかったけれど、なかなか入手できなかった平家物語の異本『源平闘諍録』(内閣文庫所蔵)が、なんと文庫本で刊行されました。新聞広告で見つけてオォーッと驚愕した1時間後、郵便屋さんが届けてくれました(福田先生ありがとうございます)。東国に関する独自記事が多く、千葉氏周辺で成立したと考えられている異色の平家物語(真名本)です。読み下し・語釈・解説、そして巻末の解題という構成をとっていますが、面白いのは解説です。平家諸本との比較、関連史料との比較を中心にして闘諍録のテキスト・史料としての位置づけを行っています。下巻の巻末に原文の翻字を入れてくれたら、ありがたいのですが、どうなるでしょうか。とにかく久しぶりのお勧めの1冊です。


国文学研究資料館史料館編『史料館所蔵史料目録 第68集 山城国諸家文書目録(その二)』(名著出版、1999年3月、定価¥2500)


 1999年9月購入。史料館所蔵の三条西家文書、徳大寺家文書、二条家文書、飛鳥井雅豊日記などの目録。中世関係では、三条西家文書に古記録の新写本類が多数ありますが、徳大寺家文書・二条家文書には中世史料は見えないようです。福田千鶴氏による解題はかなり参考になります。


網野善彦・大西廣・佐竹昭広編『いまは昔むかしは今』第3巻鳥獣戯語(福音館書店、1993年2月、定価¥8500)


 1999年10月購入。早稲田の青空古本市で第2巻・第3巻を買いました。まだこの本の書名しか知らなかった頃、何度か書店の絵本コーナーを覗いてみたものでした。出版社からすると子供向けの絵本だと思いますよね〜。もちろんどこの書店も置いてなかった。初めて実物を見たとき、大部であることと、その内容の濃さ驚きました(もちろん値段も)。小学生からお年寄りまでというコンセプトですが、むしろ玄人うけする内容です。そういえば岩波書店の『歴史を旅する絵本』もそうでしたねえ。残りの巻、とくに1999年2月に出た最終巻「人生の階段」は購入しようと思っています。索引の常識を覆しているらしい索引巻にも興味津々。


サントリー美術館編『国宝信貴山縁起絵巻』(サントリー美術館、1999年9月、定価¥2000)


 1999年10月購入。サントリー創業100周年の記念展覧会の一つとして行われた特別展の図録です。展覧会は会期を3期に分け、『信貴山縁起絵巻』を1巻ずつ全巻展示するというもの。見応えがありました。図録の方もすごいのひとこと。なんと3巻それぞれが1帖ずつの折本になっているんですねえ。装丁もちゃんとしています。それに解説1冊がつき、立派な厚手の箱に入って、このお値段。出版社が出したら¥10000近くするんじゃないかなあ。「奥さんこれはお買い得ですよ!!」


網野善彦『古文書返却の旅』(中公新書、1999年10月、定価¥660)


 1999年10月購入。戦後、水産研究所が借り出したまま放置されていた全国の漁村関係史料を、その一員だった著者が返して歩く話。面白かった。網野史学形成過程の一端がわかるばかりでなく、「こんな時代があったんだ」と史学史的にも意味のある一冊。先日、網野氏ご本人に「面白かったですよ」と申し上げたら、「若い方々にわかって戴ければ・・・」と仰っていました。「汗水垂らして歴史をやっていた時代ですね」という言葉には、「まさに仰るとおり、いいこと言いますね」とお褒めの言葉を戴いてしまいました。


斉藤国治『定家『明月記』の天文記録―古天文学による解釈』(慶友社、1999年1月、定価¥10000)


 1999年10月購入。日記や吾妻鏡を読んでいて困るのが、天文関係の記事です。そんなときに見るのが斉藤氏の著作『星の古記録』(岩波新書)『古天文学の道』(原書房)でした。この本は『明月記』に表れる天文学関係の記事を日条を逐って解説したもの。豊富な図や表つきで解説してあります。『明月記』を読むためには必須の文献でしょう。


『手漉和紙』(毎日新聞社、1975年5月、定価¥80000)


 1999年12月購入。歴博で原本調査をしていた頃から、紙には興味を持っていました。正直に言うと、実は半ば感覚で楮紙だ、斐紙だ、楮斐交じりだとやっていました。これがなかなか難しい。史料編纂所で内地留学中の富田正弘氏による講演があり、いままで楮斐交じりといわれていたのは、どうやら楮紙の打ち紙らしいという話を聞いて、少し勉強してみなければと思った次第です。そこでやはり実物を知らなくてはと、実物貼り込みを物色していたところ、これがアンテナに引っかかりました。インターネットで古書店の目録を検索したところ、お買得価格だったので買ってしまいました。でも、ちょっと痛かった。同社刊『手漉和紙大鑑』全5巻のダイジェスト版という性格ですが、標本紙編2冊と解説編1冊(いずれも和綴)に附録の重要無形文化財指定の紙見本6葉がついているというもの。標本紙は上巻に生漉紙200点、下巻に漉模様紙、和染紙、加工和紙、千代紙・型染紙250点と多彩です。これだけでもお宝という感じ。奥付に「限定3000部」とあるのには、違う意味でびっくり。「こんな本、3000も作ったのかい!! 学術書の3倍だぞ〜」
 その後、『日本の工芸4 紙』(淡交新社、1966年4月)という本も購入。これにも実物が4葉綴じ込まれていました。