最近の書棚から 1999年1月〜6月


『地図で見る百年前の日本』(小学館、1998年8月、定価¥14700)

 1999年1月購入。明治10年代に陸軍参謀本部によって作成された地形図の原寸写真版。初版は早くに品切れとなり、再版で買えました。ドイツ式とフランス式の2種類の地図がありますが、彩色の施されたフランス式のものはカラーで収められています。日本中網羅されているというわけではありませんが、これからの歴史地理的手法を用いた研究には必要な資料となるでしょう。見ているだけでも結構楽しい本です。

五味文彦『平清盛』(吉川弘文館、1999年1月、定価¥2100)

 1999年1月受贈。このところ刊行が順調になった人物叢書の一冊です。単なる伝記ではなく、清盛を通じて院政期の時代像を描き出そうとしています。五味先生のこれまでの仕事(とくにお若いころの)のエッセンスが染み込んでいるという感じです。

反町茂雄『一古書肆の思い出』1〜5(平凡社ライブラリー、1998年5月〜1999年1月、定価¥1300〜1500)

 1999年2月購入。1986年〜1992年に刊行された同書の廉価版。重要文化財級の古典籍を扱ったことで知られる反町氏の自伝的古典籍流通史。反町さんの仕事には賛否両論ありますが、やっぱりすごい。とにかく面白かった。良く知っているあの本が、「あそこから流出して、そういう過程で、あそこに入ったのね。へえ¥----だったんだぁ」というようなことがわかり、文書・記録類の伝来について興味を持っている私は、結構興奮しながら読んでしまいました。国史学・国文学研究者にはとにかくお勧めです。先頃八木書店から出たCD−ROM版『弘文荘待賈書目』にもそそられるけど、25万円じゃあ、ちょっと買えない。この本の面白さに比べると川瀬一馬『日本における書籍蒐蔵の歴史』(ぺりかん社)はちょっと・・・

奈良国立博物館編『東大寺文書の世界』(仏教美術協会、1999年2月、定価¥1500)

 1999年3月購入。国宝指定を記念して奈良博で開かれた東大寺文書展の図録です。様々なタイプの文書がこれでもかといわんばかりに出ており、写真・解説共に立派です。これが\1500とはお手頃。お持ちでない方は、通販でも買えるらしいですので是非(東博のミュージアムショップにもありました)。図録類は一度買い逃すと手に入れにくいですからねえ。奈良博で一緒に買った『良国立博物館蔵品図版目録 追録』の書跡部分はほとんどが田中穰旧蔵のもので文化庁から歴博に入らなかった重文・重美指定品です。これらを含め、現在私が把握している田中本の全体の目録もいずれこのHPにアップしたいと思っています。

宮内省図書寮善本叢刊『中右記』(美術書院、1945年12月)

 1999年5月購入。初めて買った複製巻子本です。学生に巻子本の取り扱いを教える教材として何か複製本を買おうと思っていたところ、1万円という手頃な値段だったもので買ってしまいました。刊行時期が時期ですから紙の質が良くないのは仕方がありませんが、装丁はなかなかしっかりとしています。この柳原本『中右記』は天仁2年の熊野参詣記で、ちょうど今、A学院大学の授業で取り上げている場面ですので、その意味でももってこいでした。日記・文書の原本・写本を買うつもりも、その資金もありませんが、余裕があれば、教材用の複製本(巻子本のみならず他の装丁本も)は少し手元に欲しいなあと最近思っています。
 『中右記』と言えばこの3月に大日本古記録の第3巻が刊行されましたが、近々、品切れの第1巻・第2巻が重版されるそうです。
  ※大日本古記録『中右記』1・2は5月28日に発売になりました。お早めにどうぞ。

福井俊彦・瀬野精一郎・滝沢武雄編『早稲田大学蔵資料影印叢書 古文書集1〜3』(早稲田大学出版部、1985年12月〜1986年12月、定価各¥15000)

 1999年5月購入。最近、影印本も少々買っています。一昔前の影印本と違って最近のもの(特に尊経閣善本影印集成など)は、写真が鮮明で良いですね。でも、これがまた大きいし、重いし、スペースをとって困るのですが・・・・。早稲田の古文書集は品切れだと思っていたところ、歴研大会の出店に出てたので買ってしまいました。箱の表面がちょっと磨れているだけで「痛み本」ということになってしまい、在庫があっても目録から消えていることがあるので、版元品切本・在庫僅少本が出る学会の書籍展示や生協・大型書店の特定出版社フェアは、要チェックです。書籍展示では不良在庫品?の場合は半額ということもあります。今回は東京大学出版会の川崎庸之『平安の文化と歴史』が半額で買えました。

専修大学図書館編『専修大学図書館所蔵菊亭文庫目録』(同館、1995年7月)

 1999年5月受贈。歴研大会の史料展示の時に戴きました。残念ながら現物の展示はなかったのですが、立派な目録を戴けて、今年の歴研大会最大の収穫です。菊亭本は京都大学附属図書館のものが著名ですが、専修大学のものは3448点、江戸時代を中心とする和歌・雅楽関係の資料、江戸後期の日記などが多いようです。古いものでは鎌倉期の笛の譜面や琵琶血脈も載っていました。主要なものは京大に寄託され、その残りが専修大学本ということになるのでしょうか。東京国立博物館にも菊亭本があるという話を聞いたことがありますので、これらがどういう関係にあるのか、ちょっと興味を惹かれます。

宮崎康充編『検非違使補任』第二(続群書類従完成会、1999年5月、定価¥9000)

 1999年5月受贈。弘仁7年〜貞応2年までの前冊につづき、元仁元年(1224)から元弘3年(1333)までの検非違使が別当から府生に至るまで抽出されています。鎌倉時代を研究する人にとっては必備の道具でしょう。活字史料のみならず未翻刻史料までも博捜され、出典も明記してあり、信頼性の高い仕事です。訳の分からない著書が乱発される中、こういう労の多い仕事こそ、もっと評価されるべきだと思います。

佐伯真一・高木浩明編『校本保暦間記』(和泉書院、1999年3月、定価¥8000)

 1999年5月受贈。陽明文庫所蔵の慶長古活字版の翻刻と影印が収められています。解題も要領よくまとめられています。歴史学からの研究がほとんどない史料ですが、これを機会に少し読んでみたいと思います。

横井孝『円環としての源氏物語』(新典社、1999年5月、定価¥8000)

 1999年5月受贈。中古文学、中世文学を二足の草鞋?で研究をされている著者の前者に関する論考をまとめた著作です。「まえがき」にある「「コスモロジー」などという一見それで分かり切ったことのように見えるタームをもちいることによって手抜きできるものではない。いわば用語ころがしというものに堕することを私は極端に忌む」という文章に共感をおぼえます。最近の国文学はジェンダーと身体、コスモロジーだの、トポスだの、そんなのばっかりですからねえ。


日本歴史学会編『日本史研究者辞典』(吉川弘文館、1999年6月、定価¥6000)

 1999年5月購入。田口卯吉・久米邦武・黒川真頼といった江戸時代生まれの学者から、1969年生まれの田中克行まで、既に故人となった研究者1235人の人名辞典です。収載範囲は歴史学者に限らず、国文学や美術史・地理学などの関連諸学、地域史の研究者にも及んでいます。内容は経歴と主要業績で、年譜・著作目録や追悼文がある場合には掲載誌等が掲げられているのが目玉でしょうか。内容の正確であることを旨としているために、現時点における業績の評価、研究史的な位置づけなどには言及されておらず、そのために無味乾燥な「辞典」になってしまっているのは仕方がないのでしょう。当初企画されていたという追悼文集の刊行というのも面白かったかも。


三の丸尚蔵館編『宸翰と日本文化の伝統』(三の丸尚蔵館、1999年6月、¥2000)


 1999年6月購入。三の丸尚蔵館で行われた即位10周年記念特別展の展示図録。書陵部から『伏見天皇日記』『花園天皇日記』『看聞日記』『誡太子書』の自筆本が出品されるという感激の展示でした。前期・後期各1ヶ月、もちろん両方行きました。書陵部の秋の特別展でもこれらが一同に交いすることはないんじゃないかなあ。ほとんど宣伝されていませんでしたから、知らなかった人も多いはず。図録も書陵部図書課の方々を動員して書かれた立派なものですので、御覧になれなかった方はこれだけでも手に入れたらいいかもしれません。


兵範記輪読会編『兵範記人名索引』3(立命館文学別巻、1999年4月、定価¥800)


 1999年6月受贈。杉橋隆夫氏を中心とする輪読グループによる労作。増補史料大成の第3巻分(保元3年〜仁安3年)に当たる。記録を読む上で索引の存在はありがたいばかりですが、編纂にかかる手間と時間があまりに甚大であることは身をもって感じています。研究会の発足から3冊目までの刊行に19年、第2冊の刊行からも8年というのは致し方ないところです。当方のかかわっている『吉記』の索引も2冊目の刊行を期待する向きもあるかとおもいますが・・・。『兵範記人名索引』の分冊での刊行はここまでで、残りは既刊分と合わせて単行本として刊行するとのこと。『吉記』も2冊目出さずに、そうしようかなあ。


宮内庁書陵部編『図書寮叢刊 九条家歴世記録』4(明治書院、1999年3月、定価¥15400)


 1999年6月購入。今年の図書寮叢刊は九条家本『玉葉』が1年お休みで、『九条家歴世記録』の刊行です(もう1冊は近世の和歌)。収められているのは稙通公記(享禄2・5年、天正13年別記)、兼孝公記(慶長5年)、幸家公記(元和6・7・9年)という馴染みの薄い日記になります。歴世記録もあと1冊とか。図書寮叢刊は高いけど、絶対重版しないとわかってるから買ってしまうんですね。でも最近は大日本古記録も同じ様な値段だ〜。