1.日本語・漢語を調べる

2009年1月3日作成
2009年1月12日修正
2013年8月25日更新


(1)『日本国語大辞典 第二版』全14冊(小学館、2000〜02年)

 通称「にっこく」。まずは基本中の基本、最初の一歩です。電子辞書の『広辞苑』で済ませようなんて、所詮無理なことでして、この辞典を見ないことには始まりません。第二版が出たことで初版の20冊本、縮刷版の10冊本が1万円前後の古書価格で手に入るようになりましたが、やはり第二版(50万項目)の利用を勧めます。初版(45万項目)や、第二版をもとにした精選版(30万項目)を買っても、二度手間になるだけですから。定価22万5000円は学生さんにはちょっと「高嶺(高値)の花」かもしれませんが、一生学問と付き合っていこうと思うなら、アルバイトをして買うだけの価値はあります。第二版の編纂には多くの歴史研究者が加わったことで、歴史的語句の語釈、用例が格段によくなりました。辞典にとって、用例は命です。用例のしっかりしていない辞典(辞典風のもの)は信頼に足りません。その点、一番古いと思われる用例を掲げるという一貫した姿勢は、利用する方からもわかりやすいものです。もう一点、初版に較べて画期的なのは、別巻として漢字索引がついたことです。史料用語や儀式に出てくる言葉には、難訓と思われるものが少なくありません。電子辞書の『広辞苑』やPCソフトの『国語大辞典』では検索できない読みは多いのですよ。そんなときに画数で引ける索引は重宝します。また日本語として通常の読みと、歴史用語の読みが違う場合もあります。通常の読みで出ていても、しっくりする意味がないときには別の読みがないかどうか、索引を確認してみるのもいいでしょう。
 「ジャパンナレッジ」でweb上の利用が可能になりました。検索が容易で便利になりましたが、やはり辞書は本の形で使いたいものです。


(2)『角川古語大辞典』全5冊(角川書店、1982〜99年)
   『角川古語大辞典』CD-ROM版(角川書店、2002年)

 「にっこく」で事足りると思いきや、そうはいきません。所詮、人が作ったものですから、余り適切ではない語釈や用例もあるんですね。「にっこく」より「角川古語」(または古語大とも称される)の方が項目数こそ少ないのですが、こちらの語釈の方がぴったりすることが少なくありません。とても出来のいい辞典だと思います。「角川古語」は、いわゆる歴史的仮名遣いによる配列になっていますので、「かん」が「くわん」だったり、「しょう」が「しやう」「せう」だったりと、ちょっと歴史的仮名遣いの知識が必要になりますが、馴れるまでは、いくつかあたりをつけて引いてみてください。逆にそれが勉強にもなります。CD-ROM版は、電子辞書にあるような、その言葉を直接検索する「見出し語入力検索」もありますが、「見出し語五十音順検索」という、「あ」の下の階層に「あい」「あう」があるような、いわゆるツリー状に配列されたものをたどっていく検索方法が基本になっています。これだと前後の項目が一目瞭然なので、紙の辞典を使っているのと同じような感覚で使えます。書籍だと5冊で10kgを超えるような辞書がノートパソコンに入れて持ち運べますしね、便利ですよ。CD-ROM版の定価は12万6000円。書籍版は新刊では入手不能、古書価格で15万円前後でしょう。



(3)『時代別国語大辞典 室町時代編』全5冊(三省堂、1985〜2001年)


 正直言って、私の場合、「にっこく」「角川古語」に較べると、利用頻度はがたっと落ちます。高価な割りには、ちょっと地味な辞典です。でも捨てがたい語釈があったり、「にっこく」や「角川古語」には載っていない用例があったりという魅力もあります。例えば、中世後期の記録にもよく「自愛々々」と出てくる「自愛」ということば。『中華若木詩抄』の同じ用例を引いていても、「人や物を大事にすること。珍重すること。また、それに値するさま」(『日本国語大辞典 第二版』、「たいそう気に入るさま」(『角川古語大辞典』)、「当面の状況を、我が意にかなったものとして満足し喜ぶこと」(『時代別国語大辞典』)という語釈の違いがあります。『時代別国語大辞典』の語釈、かなりいいでしょ。中世後期の史料を読むには必見ですが、中世前期の史料を読む場合でも参考になることが多々あります。見ておいて損はありません。しかし、5冊で定価22万3650円は高すぎます。背革装天金は不要。なお、ほかには『上代編』1冊があるだけで、平安時代編や鎌倉時代編はありません。念のため。




※いずれの辞典も古記録からの用例は十分なものではありません。使われているのは活字本になっている一部の書目に限られています。そのために活字本や写本の誤字を見過ごした誤った用例に基づく語釈という場合もあるのです。古記録での用法が辞典の語釈とぴったりしないことは多々あります。最終的には公開されている全文データベースを利用したり、自身で活字本や写本をめくって用例を検索し、その記主の用法を踏まえて、文脈に適した意味を考えることが必要です。


(4)『漢和大辞典』縮写版全13冊(1966〜68年)+語彙索引(1989年)+補巻(2000年)(大修館書店)


 これも基本中の基本ですから、多くの説明を必要としないでしょう。諸橋轍次の偉業です。小さな漢和辞典を使っても、結局は「大漢和」に出ている漢語かどうか、ということが問題になりますので、最初からこれを使った方がいいですよ。現在は語彙索引・補巻を加えた全15冊の修訂版(定価25万2000円)が出ていますが、判型が大きく、場所をとります。漢詩文・漢籍の研究者にとっては修訂版と旧版とで大きな異同があるのかもしれませんが、私などが利用する分には旧版で十分です。古書店なら全13冊2〜3万円くらいで購入できるA5判型全13冊の縮写版がお勧めです。ただし、『語彙索引』と『補巻』は別途購入することになります。こちらは修訂版と同じサイズで、縮写版はありません。『語彙索引』は調べようとしている言葉の該当ページが一目瞭然ですので便利です。一方、最後に刊行された補巻は全13冊の本巻や語彙索引と連関が図られていないこともあり、使いづらいので、正直に言って、ほとんど使ったことがありません。



(5)『漢語大詞典』縮印本全3冊(漢語大詞典出版社、1997年)


 『大漢和』に対抗し、それを上回る規模で出されたといわれる中国語の辞典です。元版全12冊を全3冊8000ページ弱に組み直したものです。ですから、語釈も当然中国語。でも、「的」が「の」だという位の知識があれば、漢文を読む感じで、おおよその内容を理解することはできます(たぶん)。『大漢和』と比較して、長所としては、用例が豊富である点(大漢和にはあまり用いられていない元・明代の用例もある)、同じ用例でも広い範囲で文章を採録しているので用例の文脈が読み取れることがあげられます。それに語釈も、『大漢和』よりいい場合もあります。一方、短所としては、親字は繁字体(正字)なのに熟語や語釈が簡略体なので、馴れないと「この字何だ?」ということになること、熟語の配列が画数順になっており、『大漢和』の五十音順に馴れていると使いづらく、私の場合、その親字の熟語を頭から追って言葉を探していくという事態になってしまうことがあります。中国書籍を取り扱っている書店(例えば内山書店・東方書店など)で購入できます。セール時期だと1万8000円くらい買えることもありますよ。
 中国製のDVD-ROM盤が出ました(Windows8対応)。日本語版のOS上でも使えて、便利らしいです。しかし、今後OSが変わると使えなくなる可能性が高いので、購入には慎重になります。
 花園大学禅文化研究所が編纂した『多効能漢語大詞典索引』(漢語大詞典出版社、1997年)があります。逆引きもできて便利なのですが、残念ながらこの縮印本にはページ数が対応していません。しかし、手がかりにはなります。なかなか入手が難しいのですが、最近ようやく手に入れました。


(6)『学研漢和大字典』(学習研究社、1978年)


 1冊本の漢和辞典として使っているのがこの藤堂明保編の『学研漢和大字典』です。写真左は普及版、右の一回り大きいのは机上版(ただし国語大辞典とセットの別装訂版)で、いずれも旧版。現在はJIS水準の文字番号などに対応した『学研新漢和大字典』という新版が出ています。親字や熟語の数は到底『大漢和』に及びませんので、私の利用法は、ちょっとした親字の読みを調べる場合です。そして、この辞典の最大の長所は「古訓」欄があること。『大漢和』には「古訓」欄などありませんから、これを見るためにこの辞典を使っていると言っても過言ではありません。この「古訓」欄は『和名類聚抄』『類聚名義抄』『新撰字鏡』といった平安時代に作られた古辞書の訓が載っているのです。古辞書の訓を簡便に調べるのには最良の辞典なのですよ。新版は普及版でも\9240ですが、旧版なら古書店やネットオークションで2千円台、あるいは数百円で購入することも可能です。なお、『学研漢和大字典』は『Super日本語大辞典 全JIS漢字版』(学習研究社、2002年)というCD-ROMに収録されており、これもパソコン上で利用していますが、これには「古訓」欄がありません。



(7)古辞書いろいろ


 ある漢字や熟語が中世にはどう読まれていたのか。それを知る手がかりの一つが古辞書と呼ばれる史料群です。古辞書を使うということを知ったのはM1の時、教えてくださったのは故田中稔先生でした。平安時代から室町・戦国時代にはさまざまな辞書が作られており、『新撰字鏡』『和名類聚抄』『類聚名義抄』『色葉字類抄』『節用集』『下学集』『日葡辞書』などがその代表的なものです。また、それぞれに諸本があり、多くの影印本や集成本が刊行されています。古辞書の概要については西崎亨編『日本古辞書を学ぶ人のために』(世界思想社、1995年)などが参考になります。なかでも中世前期の記録類を読む上で一番参考になるのは12世紀ごろに作られた『類聚名義抄』(観智院本)でしょう。天理図書館善本叢書(八木書店)の影印本が精巧ですが、使いやすさという点では、仮名索引・漢字索引がついている正宗敦夫編『類聚名義抄』全2冊(風間書房、1954〜55年、※左上写真の一番奥)がお勧めです。同じ出版社から正宗編で『和名類聚鈔』全2冊(索引あり)と『伊呂波字類抄』(十巻本)全1冊(索引なし)も出ています。室町時代の辞典『節用集』にはいろいろな本がありますが、5種類の本を集成した亀井孝編『五本対照改編節用集』(謄写10冊、私家版、1960〜70年。のち勉誠社より2冊本で公刊。写真には写っていませんので悪しからず)が便利です。そして、時代は下りますが、結構侮れないのが『邦訳日葡辞書』(岩波書店)です。なお、先に紹介した『学研漢和大字典』や『大字源』(角川書店)にはそれぞれの親字に「古訓」の欄がありますし、『日本国語大辞典』(小学館)も各項目の最後の方にどの古辞書にその語が出ているかを記した欄があります。辞典を使うときにはそんなところにも気をつけましょう。


(8)佐藤喜代治氏の著作三題


 ここで是非ご紹介したいのが国語学者佐藤喜代治氏の三種類の著作です。まずは、角川書店から出されていた「角川小辞典」シリーズの『日本の漢語』(1979年)と『字義字訓辞典』(1985年)。前者は「漢語概説」から始まり、古代・中世・近世・近代の代表的な漢語を取り上げて、漢籍や歴史史料・文学作品などを駆使しつつ、読みや語義を詳しく解説しています。例えば「古代の漢語」では「勘定」「不孝」「窮屈」「景迹」「期」「経営」「左右」「術無し」「牢籠」など、「中世の漢語」では「境界」「高名」「覚悟」「時宜」「生涯」「進止」「分際」「物騒」などなど。記録や文書を読んでいる人には惹き付けられるような項目でしょ。とても勉強になります。後者は常用漢字と人名用漢字に採用されている文字を取り上げて、漢籍などから字音や字義を解説し、古辞書等から字訓や人名に使われる際の「名乗」を紹介しています。二冊とも古書店で見かけたら是非買った方がいいと自信を持って薦められる本です。そしてもう一つが『『色葉字類抄』略注』全三冊(明治書院、1995年)です。こちらは前田本・黒川本という三巻本『色葉字類抄』をもとに、そこに掲載されている言葉について、他の古辞書や漢籍・和書などをも使って、その字訓や用例を解説したもの。3冊で4万5000円近い高価な本ではありますが、知らないことが満載されています。巻下(第三冊)の巻末には索引もついていますから、そこから知りたい言葉を検索することもできます。現在では版元在庫無しとのことですので、古書で入手するしかないようです。


(9)国語学の研究書いろいろ


 数年前まで記録語の研究書といえば築島裕氏の『平安時代の漢文訓読語につきての研究』(東京大学出版会、1963年)『平安時代語新論』(東京大学出版会、1969年)、峰岸明氏の『平安時代古記録の国語学的研究』(東京大学出版会1986年)『変体漢文』(東京堂出版、1986年)くらいしかありませんでしたが、小山登久氏・中山緑朗氏の著作を手始めに、穐田定樹・遠藤好英・辛島美絵・清水教子・西田直敏・堀畑正臣・三保忠夫の各氏の著作など、古記録のみならず古文書までも研究対象にした研究書が、この十年くらいの間にいろいろと出版されました。良心的な多くの本には「語彙索引」が付されていて、辞典的な使い方も可能になっています。国語学でどんな研究があるかは、国文学研究資料館編『国文学年鑑』(至文堂)や同館が公開している電子資料館の「国文学論文目録データベース」などを利用して調べることが可能です。このホームページでも「古記録文献目録 記録体記録語編」を公開しています。研究書を一通り眺めてみるだけでも、何か参考になるかも知れません。



(10)用語集

 まだ『日本国語大辞典』(小学館)が刊行されていなかった頃、辞書には載っていない史料用語の用語集がいくつか作られました。たとえば、『斎木一馬著作集1 古記録の研究 上』(吉川弘文館、1989年)に再録されている「国語史料としての古記録の研究―記録語の例解―」「記録語の例解―国語辞典未採録の用字・用語―」です。これは用例もきちっとあげられており、優れたものです。同じく用例を載せているものとしては貴志正造編『全訳吾妻鏡』(新人物往来社)の別巻に収められた「吾妻鏡用語注解」(100ページ強の分量)があります。こちらは『日本国語大辞典』刊行後ですから、「にっこく」その他の辞典や古辞書類を参考にして作られています。また、伊地知鉄男『古文書学提要 下巻』(大原新生社、1969年)の「第三部 古文献利用の便蒙」の中には「古記録用語特殊解(案)」という50ページほどの用語集が収められています。用例が載っていないという問題はありますが、簡便な用語集として手元にあると便利です。私も学生時代にはこれを両面コピーしたものを持ち歩いていました。最近も記録・文書の用語辞典や用語集を載せた入門書が刊行されていますが、まったくと言っていいほど用例が載せられていないので、私は信用していません。


(11)漢籍由来の語を調べる

 『大漢和』『漢語大詞典』といえども万能ではありません。使われている熟語そのものが出ていなかったり、適切な用例が載っていないこともあります。そんなときには、漢詩を作るための用例集ともいえる韻府類を使うと出ていることがあります。代表的なものは『佩文韻府』や『駢字類編』です。前者は縮印したものが明治時代に吉川弘文館から3冊本で出ていますが、今日広く用いられているのは、上海古籍出版社の4冊本か、台湾商務印書館の索引本7冊です。後者は中国書店の12冊本+索引があります。
 例えば、『玉葉』元暦元年(1184)3月18日条に引用されている「藤枝扣松関」という一節。『大漢和』には「藤枝」の熟語はなく、「松関」には「自然の松樹をそのまま門にしたもの」として、唐順之「松関詩」の「照松関」、孟郊「退居詩」の「幽幽扣松関」、鄭谷「七祖院小山詩」の「…扣松関」が用例として掲載されていました。『漢語大詞典』にもそのものズバリの用例は出ていません。そこで、『索引本佩文韻府』の「関」の字の熟語「松関」の用例を見ましたが、これも該当するものなし(残念!)。ということで、最後の手段で『駢字類編』を見ると、「松」の熟語「松関」の中に「藤杖」を伴う用例が出ているではありませんか。出典は許渾の「重游欝林寺道元上人院詩」ということですので、『全漢詩』(中華書局)で、許渾の詩を探すと、「重遊欝林寺道玄上人院」の題の詩に「藤杖叩松関」が出ていました。本来「杖」だったのが、どこかで「枝」に変わってしまったのでしょう。子息藤原良通の夢のお告げに出てきた漢詩の一節の出典は、この詩でした。拙著『玉葉精読―元暦元年記―』(和泉書院)の223ページには、典拠の結論しか載せていませんが、こういう調べ方をした上での結論なのです。ググったり、データベースを利用するのが有効なこともありますが、このケースのように「枝→杖」「扣→叩」という文字の違いがあると、ヒットしませんので、やはり本を使って調べることも大事です。
 典拠に関するテキストとしては、唐代の詩は『全唐詩』25冊+補編3冊(中華書局)、詩以外の文章は『全唐文』11冊+作者索引1冊(中華書局)があり、それ以前の時代については『先秦漢魏晋南北朝詩』3冊(中華書局)と『全上古三代秦漢三国六朝文』4冊(中華書局)があります。これでだいたいはカバーできるでしょう。さらに、日本の古典と切っても切り離せない『白氏文集』や『文選』については、平岡武夫・今井清編『白氏文集歌詩索引』(同朋社、1989年)や『索引本文選』『文選索引』(ともに中文出版社)があります。

(12)ちょっとマニアックな字典たち

 漢籍を研究対象にしている人々にはよく知られているが、日本史研究者にはあまり知られていない辞典(字典)を紹介しておきましょう。いずれもまさに「字典」で、漢字の意味に拘っています。先ずは、田中慶太郎『支那文を読む為の漢字典』(研文出版)。1940年に初版が出て、そのまま版を重ねている息の長い字典です。例言によれば、中華民国時代に上海商務印書館が刊行した『学生字典』を邦訳し、反切・詩韻・説文部首順位(※漢字学の基本文献『説文解字』で知られる)を新たに加えたとのことです。内容は、各文字の意味を記すのみで、熟語は出ていませんが、その意は簡にして要の一言に尽きます。
 江戸時代の儒学者たちは、漢文を学ぶための手引書をいろいろと作りました。代表的なものは『漢語文典叢書』全7冊(汲古書院)に入っていますが、それにも収録されている荻生徂徠『訳文筌蹄』や伊藤東涯『操觚字訣』は明治時代に須原屋書店から活字本が出ていました。前者(明治41年刊)は同じ訓を持つ漢字でも、それぞれの文字でどのようなニュアンスの違いがあるのかを記した字典で、訓の五十音順に配列されています。但し、ほとんど用例はナシ。後者(明治39年刊)は助字や語辞などに分類した上で、五十音配列し、用例を掲げて文字の意味を説明しています。この2冊は『同訓異義辞典』の書名で、名著普及会からも復刻版が出ていますし、国会図書館の近代ライブラリーにも掲載されています。どれだけ活用できるかはともかく、なるほどと思うことも少なくありません。現在刊行されている新釈漢文大系(明治書院)などの凡例を見ても、漢文の読みそのものは、江戸時代に版行された本やそれに拠った明治時代の本の読みを踏襲していることが殆どのようです。本当ならば室町時代の清家訓点本などに遡らなくてはいけないのでしょうが、現実にはそうなっていません。逆に言うと、江戸時代の儒学者の読みや知識を無視できないということでもあります。
 こうした字典、元をたどれば『説文解字注』(上海古籍出版社ほか)がありますし、『漢語大字典』全8冊(四川辞書出版社・湖北辞書出版社、1986年。※最近第二版が出た)もあります。