2.仏教語を調べる

2009年6月3日作成
2013年8月25日追加
2013年10月4日修正


(1)石田瑞麿『例文仏教語大辞典』(小学館、1997年)


 『日国』では事足りない専門語というと、やっぱり仏教語でしょう。数ある仏教語辞典の中で、もっともお勧めなのはこの辞典です。『日本国語大辞典』の仏教語を担当した著者のコンセプトは、「例文」、すなわち用例を日本の文献から挙げ、日本における仏教の受容や、独自の展開の一端を知り、用語を理解することにあります。つまりは、多くの仏教語辞典のような教義的な難解な説明ではなく、日本の史料に即したわかりやすい説明になっているのです。けっして『日国』の抄出ではありません。1冊本ですが、項目数3万、用例数4万5千。『日国』に出ていない仏教語も少なくありませんし、語釈もこちらの方がよいようです。例えば、修法の中で行われる「五大願」は、『日国』には立項されていませんが、『例文』には出ています。また、『玉葉』に「不動の持者」という語が出てくるのですが、『日国』の「持者」は、持経者の略という説明に終始しています。ところが、『例文』の方は、「経を所持して常に読誦する者。または、陀羅尼などを口に常に称える者」という「持経者」の意味の他に、「仏・菩薩を篤く信仰する者」という意味が載っています。『玉葉』のこの語は「不動を篤く信仰している者」という意味なのですね。お使いでない方は、だまされたと思って使ってみてください。良さがわかると思いますよ。


(2)望月信亨『望月仏教大辞典』全10冊(世界聖典刊行協会、増訂版1954〜63年)

 大部の仏教辞典といえば、代表的なのがこの辞典でしょう。かなり信頼されている仏教辞典でもあります。本編が5冊、年表が1冊、索引が1冊、増補1冊、補遺2冊という構成です。独立した索引巻は本編のみの索引なので、その点が使いにくい。語彙数は多いのですが、語釈は難しい。一言で言えば、一応確認しておくべき辞典です。







(3)中村元『仏教語大辞典』全3冊(東京書籍、1975年)


 本文編2冊、索引1冊。どこの図書館にでも置いてあるオーソドックスな仏教語辞典ですね。配列が単なる五十音順ではなく、漢字の音を五十音順に配列するという、いわゆる「電話帳方式」です。この辞典もコンセプトとしては、仏教語という術語を現代語で平明・簡潔に説明すること、日本の重要な古典などに現れた仏教語についても解説していることらしいのですが、どうも私の感覚では今ひとつ。例えば、上記の『例文仏教語大辞典』で触れた「五大願」は項目が立っていないし、「持者」の項目もない(「持経者」はある)。それと、用例がない。出典名と大正新脩大蔵経等のページ数だけ。最近手に入れたばかりですが、まだ「これはいい!」という場面なし。


(4)岩本裕『日本仏教語辞典』(平凡社、1988年)

 1冊本。日本古典文学大系(岩波書店)の所収の古典から用例をとり、項目を立てている辞典です。語釈や説明はかなりわかりやすいし、用例もきちんと載っている。ただし、項目数が少ないのですね。記録類からはまったく用例をとっていない。「五大願」は項目なし。「持者」の項目はありますが、「持経者の略」という説明と『今昔物語集』の用例のみ。これまた最近入手したばかりなので、今後の活躍に期待(笑)


(5)小型の仏教辞典いろいろ

 代表的なものは岩波書店の『岩波仏教辞典』。初版(1989年)と第二版(2002年)があります。法蔵館の『新版 仏教学辞典』(1995年)というのも。持ち運ぶことがあるとすれば、簡便かもしれない。岩波は多少用例が出ている項目もありますが、法蔵館は用例なし。「用例のない辞典は信じない」が私の考えなので、その点で「はい、消えた」になってしまいます。でも、「五大願」は法蔵館版に出ていました。「持者」は、ともになし。
 結論的に言えば、「小さい辞典は使えない」。漢語調べるのに、『新字源』(角川書店)で済むわけないでしょ。それと同じです。




(6)特化した辞典

 ひろく仏教語全般ではなく、密教に特化した『密教大辞典 縮刷版』(法蔵館、1983年)、佐和隆研編『密教辞典』(法蔵館、1975年)。禅宗関係の語彙を集めた入矢義高監修『禅語辞典』(思文閣出版、1991年)があります。『密教大辞典』は元版が1931年刊ですから、もちろん正字・旧仮名遣い。仏教的な学のない当方にとっては、説明そのものが??? 佐和版は「叢書目録」「密教系譜」などの付録が充実。挿図も大きめなところがいい。『禅語辞典』は、正直言って、これまで使う場面なし。しかし、室町期の記録類を読むにはきっと必要でしょう。でも『禅学大辞典』(大修館書店)があれば、それに越したことなし。

(7)その他

 辞典ではありませんが、仏教関係の言葉を調べるためにも、大正新脩大蔵経テキストデータベースは便利です。大日本仏教全書のデータベースがあればいいなぁ。
 天台宗関係の聖教は『天台電子仏典』CD1〜CD4(天台宗典編纂所)が出ています。CD4には『門葉記』『阿娑縛抄』が収められていて便利です。3000円はお買い得。

追加

(8)龍谷大学編『仏教大辞彙』全7冊(冨山房、1914年〜73年)

 その後、購入しました。本編6冊と戦後刊行された索引1冊。まだ、活用はしていませんが、「五大願」も立項されています。写真の架蔵本にラベルが貼ってあるのは、最近劇場を売却した某劇団の廃棄本ゆえ。